第1種旅行業は、旅行業の登録種別のなかで最上位に位置し、本邦内・本邦外を問わず募集型企画旅行から手配旅行まであらゆる旅行業務を取り扱うことができます。大手旅行会社や海外旅行を主力とする事業者が取得を目指す登録区分ですが、財産的基礎の要件が高く、営業保証金の額も他の種別と大きく異なります。本記事では、第1種旅行業の業務範囲・登録要件・申請先・旅行業務取扱管理者の選任基準を、旅行業法の条文と施行規則の確定数値に基づいて体系的に解説します。旅行業への参入を検討する方、旅行業務取扱管理者試験の対策をしている方はぜひ参考にしてください。

第1種旅行業とは何か
4区分の登録種別における位置づけ
旅行業の登録種別は、旅行業法施行規則第1条の3が定める第1種・第2種・第3種・地域限定の4区分に分かれています。登録種別は旅行業者が実施できる業務範囲を規定するものであり、各区分の業務範囲は以下のとおりです(旅行業法施行規則第1条の3。根拠: e-Gov法令API 2026年9月実測)。
| 種別 | 募集型企画旅行の実施 | 受注型企画旅行の実施 | 手配(法第2条第1項第3号~第5号の行為) |
|---|---|---|---|
| 第1種 | 本邦内・本邦外とも可 | 本邦内・本邦外とも可 | 本邦内・本邦外とも可 |
| 第2種 | 本邦内は可。本邦外は不可(できないのはこれだけ) | 本邦内・本邦外とも可 | 本邦内・本邦外とも可 |
| 第3種 | 拠点区域内で実施するものに限る | 本邦内・本邦外とも可 | 本邦内・本邦外とも可 |
| 地域限定 | 拠点区域内で実施するものに限る | 拠点区域内で実施するものに限る | 拠点区域内の運送等サービスに係るものに限る |
「拠点区域」とは、自らの営業所の存する市町村の区域、これに隣接する市町村の区域および観光庁長官の定める区域のことです(施行規則第1条の3第1項第3号)。なお、他の旅行業者が主催する企画旅行の受託販売(法第14条の2)は上表の「実施」とは別の行為であり、登録種別にかかわらず受託契約に基づいて行うことができます。
第1種が必要になる業務の具体例
表を見るとわかるように、第1種と第2種の業務範囲の違いは「本邦外の募集型企画旅行を主催者として実施できるかどうか」という一点に絞られます。したがって、海外への団体旅行をパッケージとして自社企画・販売したい場合(つまり海外の募集型企画旅行の実施)には、第1種の登録が必要です。
一方、海外旅行であっても顧客の依頼を受けて旅程を組む受注型企画旅行や、ホテル・航空券の個別手配は第2種・第3種でも対応できます。また、他社(第1種旅行業者など)が主催する海外ツアーを受託販売することも種別にかかわらず可能です。事業の主力となるサービスが何かを確認したうえで、必要な種別を判断することが重要です。
2018年改正と第1種に関わる制度変更
旅行業法は2018年(平成29年法律第50号「通訳案内士法及び旅行業法の一部を改正する法律」、2018年1月4日施行)に大きく改正されました。この改正の主な追加事項として、旅行サービス手配業(ランドオペレーター)の登録制度(法第2条第6項)、地域限定旅行業務取扱管理者試験(法第11条の3第2項)、暴力団員等の登録拒否事由への追加(法第6条第1項第3号・第8号)があります。管理者の近接営業所での兼務(法第11条の2第5項)、管理者選任基準の3区分化(同第6項第1号)、定期研修の義務化(同第7項)もこの改正で追加されました。第1種旅行業の登録制度そのものに大きな変更はありませんでしたが、改正後の制度下で運用されている点を理解しておきましょう。
財産的基礎(基準資産額)の要件
基準資産額の金額と算定方法
旅行業の登録を受けるには、財産的基礎として一定の基準資産額を満たすことが要件のひとつです(法第6条第1項第10号・施行規則第3条)。第1種の基準資産額は3,000万円です(2026年9月時点・施行規則第3条第1号)。
基準資産額の算定方法は施行規則第4条が定めています。「資産総額(繰延資産・営業権を除く)から負債総額と営業保証金の額(保証社員は弁済業務保証金分担金の額)を控除した額」として計算します。貸借対照表上の純資産額とは計算式が異なるため、経理担当者との確認が必要です。
4種別の基準資産額と営業保証金の対比
基準資産額と営業保証金は別々の要件であり、混同しやすいポイントです。種別ごとの数値を下表に整理します(2026年9月時点・施行規則第3条・別表第一)。
| 種別 | 基準資産額(施行規則第3条) | 営業保証金最低額(別表第一・取引額400万円未満) | 弁済業務保証金分担金 |
|---|---|---|---|
| 第1種 | 3,000万円 | 7,000万円 | 1,400万円 |
| 第2種 | 700万円 | 1,100万円 | 220万円 |
| 第3種 | 300万円 | 300万円 | 60万円 |
| 地域限定 | 100万円 | 15万円 | 3万円 |
試験でよく見られる誤りとして、「第1種の営業保証金は3,000万円」とするケースがあります。3,000万円は基準資産額であり、営業保証金ではありません。また、「第2種の営業保証金は700万円」も同様の誤りで、700万円は基準資産額(施行規則第3条第2号)です。営業保証金の金額は施行規則別表第一が根拠であり、旅行業法施行令には規定がありません(条文全文を機械検索した実測値: 0件。2026年9月時点)。
営業保証金と弁済業務保証金分担金の仕組み
営業保証金の供託制度
旅行業者は旅行業務を開始するにあたって、旅行業法第8条第1項の規定に基づき、施行規則別表第一が定める金額の営業保証金を供託所(法務局等)に供託しなければなりません。営業保証金は、旅行業者が倒産した場合などに旅行者が損害を受けたとき、弁済を受けるための原資として機能します。
第1種の営業保証金最低額は7,000万円です(前事業年度の旅行者との取引額が400万円未満の場合。2026年9月時点・施行規則別表第一)。7,000万円という金額は他の種別と比べて格段に高く、第1種登録の参入障壁のひとつとなっています。なお、第1種には別表第二(本邦外の募集型企画旅行に係る取引額)に応じた加算額がありますが、本邦外の募集型企画旅行の取引額が8億円未満の場合は加算額0円であるため、新規登録時の最低額は7,000万円のままです。
営業保証金の逓増(取引額に応じた増額)
前事業年度の旅行者との取引額が一定金額を超えると、施行規則別表第一の定めにより翌年度以降の営業保証金の額が増加します。第1種の主な区分は次のとおりです(2026年9月時点・施行規則別表第一)。
| 前事業年度の取引額 | 第1種の営業保証金 |
|---|---|
| 400万円未満 | 7,000万円 |
| 400万円以上 5,000万円未満 | 7,000万円 |
| 5,000万円以上 2億円未満 | 7,000万円 |
| 2億円以上 4億円未満 | 7,000万円 |
| 7億円以上 10億円未満 | 7,000万円 |
第1種は別表第一において、本邦内の取引額が拡大しても7,000万円で変動しない区分が続きます。ただし前述のとおり、本邦外の募集型企画旅行の取引額が8億円以上になると別表第二による加算が発生します。このため、「◯種は◯万円」と一律に断定せず、取引額の条件とともに把握することが正確な理解につながります。
弁済業務保証金分担金による供託の軽減
旅行業協会(日本旅行業協会:JATA 等)の保証社員になると、営業保証金の供託に代えて弁済業務保証金分担金を旅行業協会に納付することができます(法第49条第1項)。弁済業務保証金分担金の額は、観光庁「旅行業法概要」によれば本来の営業保証金の5分の1に当たる額とされており、第1種の場合は7,000万円 ÷ 5 = 1,400万円となります(2026年9月時点)。7,000万円の供託が1,400万円の分担金納付に置き換わるため、資金繰りの面から旅行業協会への加入を選択する事業者が多くあります。
弁済業務保証金分担金を「営業保証金の10分の1」と誤解する例がよく見られますが、正しくは5分の1です。第1種の1,400万円が営業保証金7,000万円の5分の1であることを検算して確認してください。
第1種旅行業の申請先と手続きの概要
申請先は観光庁長官
旅行業の登録は旅行業法第3条により観光庁長官が行います。第2種・第3種・地域限定・旅行業者代理業(観光圏内限定旅行業者代理業を除く)の登録事務については、主たる営業所の所在地を管轄する都道府県知事が行います(法第67条・旅行業法施行令第5条第1項)。一方、第1種については都道府県知事への委任がなく、申請先は観光庁長官です(施行規則第1条の2第1項第1号)。旅行業法の現行条文には「国土交通大臣」という用語が登場しないことも確認しておいてください(条文全文を機械検索した実測値: 0件。2026年9月時点)。
申請書類と事前確認事項
第1種旅行業の新規登録申請に必要な書類の詳細は、観光庁が公表している申請の手引き等でご確認ください。一般的に必要とされる書類には、登録申請書・定款または寄附行為の写し・役員の登記事項証明書・直近の財務諸表・営業保証金の供託証明書(または旅行業協会保証社員であることを証する書面)・旅行業務取扱管理者の選任を証する書類などが含まれます。
登録申請前に確認すべき主なポイントとして、①基準資産額3,000万円の充足、②営業保証金7,000万円の供託準備(または旅行業協会への加入手続き)、③各営業所の旅行業務取扱管理者の選任体制、④登録拒否事由(法第6条第1項)の非該当確認があります。登録拒否事由には、登録取消後5年以内(第1号)・一定の刑事罰(第2号)・暴力団員等(第3号)・管理者を確実に選任すると認められない(第9号)・財産的基礎の不充足(第10号)など11項目が定められています。
登録後の更新・変更手続き
旅行業の登録は5年ごとに更新が必要です(法第6条第2項)。更新を怠った場合は登録の効力が失われるため、更新期限の管理は登録後の重要業務のひとつです。また、商号・代表者・営業所の所在地など登録事項に変更が生じた場合は、変更登録または変更届出の手続きを行う必要があります(法第7条・法第6条の2)。旅行業務取扱管理者が欠員となった場合には、新たに管理者を選任するまでの間、その営業所での旅行業務に関する契約の締結が禁止されます(法第11条の2第2項)。
旅行業務取扱管理者の選任要件
選任基準は「営業所が取り扱う旅行の範囲」で決まる
旅行業者等は、営業所ごとに1人以上の旅行業務取扱管理者を選任し、その管理監督業務を行わせなければなりません(法第11条の2第1項)。どの区分の管理者を選任するかは、登録種別ではなく、その営業所が実際に取り扱う旅行の範囲によって決まります(法第11条の2第6項)。この点は試験でも頻出の論点です。
第1種旅行業者であっても、本邦内の旅行のみを取り扱う営業所であれば国内旅行業務取扱管理者を選任できます。反対に、第2種・第3種の旅行業者でも、海外を含む旅行を取り扱う営業所には総合旅行業務取扱管理者が必要です。区分の単位は営業所であり、登録種別ではないことを必ず押さえてください。
選任基準の3区分(法第11条の2第6項)
法第11条の2第6項は、選任できる管理者の区分を3つに分けています(2026年9月時点・e-Gov法令API実測)。
| 号 | その営業所が取り扱う旅行 | 選任できる管理者 |
|---|---|---|
| 第1号 | 拠点区域内の本邦内旅行のみ | 地域限定・国内・総合のいずれでも可(地域限定は「当該営業所の所在する地域に係るものに限る」) |
| 第2号 | 本邦内の旅行のみ(拠点区域を超える) | 国内または総合 |
| 第3号 | それ以外(海外を含む) | 総合のみ |
海外ツアー(本邦外の募集型企画旅行)を取り扱う営業所は法第11条の2第6項第3号に当たり、総合旅行業務取扱管理者の選任が必要です。同じ旅行業者でも、取り扱う旅行の範囲が本邦内に限られる営業所には、国内旅行業務取扱管理者を選任できます(同項第1号・第2号)。条文(法第11条の2第6項)には登録種別が一度も現れない点が、混乱を生じさせやすいポイントです。
選任義務の名宛人は旅行業者等(事業者)であり(法第11条の2第1項)、旅行業法に無資格者個人の業務を禁じる規定・処罰する規定は存在しません。選任義務に違反した事業者については、登録拒否(第6条第1項第9号)・新たに選任するまでの契約締結禁止(第11条の2第2項)・30万円以下の罰金(第79条第3号・第4号)の規定が適用されます。
近接営業所での兼務(法第11条の2第5項)
観光庁長官が「近接している」と認める2つの営業所については、1人の旅行業務取扱管理者が両営業所を兼務することができます(法第11条の2第5項)。この兼務規定は2018年改正で追加された制度です。近接と認められるかどうかは観光庁長官の判断によるため、具体的な要件は観光庁の案内等でご確認ください。複数の営業所を持つ第1種旅行業者では、管理者の兼務可否を把握しておくと人員配置の計画に役立ちます。
旅行業務取扱管理者試験における第1種関連の頻出論点
登録種別と管理者選任基準の区別
試験では、登録種別ごとの業務範囲と、管理者選任基準となる「営業所が取り扱う旅行の範囲」の2つを区別して理解しているかが問われます。よくあるつまずきとして「第1種だから必ず総合管理者が必要」という誤りがあります。実際には、第1種であっても本邦内専業の営業所には国内旅行業務取扱管理者を選任できます(法第11条の2第6項第2号)。比較表の設問でも、「登録種別の列と選任管理者の列を直接対応させる」形の選択肢は誤りです。
財務要件の数字の正確な把握
営業保証金・基準資産額・弁済業務保証金分担金の数字を問う設問が頻出です。数値を正確に覚えるための確認ポイントをまとめます。
- 第1種の基準資産額は3,000万円(施行規則第3条第1号)であり、営業保証金7,000万円と混同しない
- 弁済業務保証金分担金は営業保証金の「5分の1」(1,400万円)であり「10分の1」ではない
- 営業保証金・基準資産額の根拠は「旅行業法施行規則別表第一・第3条」であり「旅行業法施行令」に規定はない(施行令の条文全文で実測0件。2026年9月時点)
- 地域限定旅行業の営業保証金最低額は15万円(取引額400万円未満の場合)であり、100万円は取引額400万円以上5,000万円未満の区分の額
申請先と行政庁の問題
旅行業法で定める行政庁の問題は毎年出題されています。第1種の申請先(観光庁長官)と第2種以下の申請先(都道府県知事)の根拠条文まで押さえておきましょう。試験で混乱しやすい点として、「JATAは観光庁長官が指定した旅行業協会(法第41条第1項)」であること、「試験事務を行うJATAの法的位置づけは、観光庁長官が申請により試験事務を行わせている代行機関(法第69条第1項)であり、旅行業法に存在しない『指定試験機関』ではない」ことがあります。
第1種旅行業の登録準備チェックリスト
- 基準資産額3,000万円の充足を確認した(施行規則第3条第1号・2026年9月時点)
- 営業保証金7,000万円の供託手続きを行った(または旅行業協会保証社員として分担金1,400万円の納付を行った)
- 営業保証金の根拠が「旅行業法施行規則別表第一」であることを確認した(施行令に規定なし)
- 各営業所の取扱旅行の範囲を確定し、必要な区分の旅行業務取扱管理者を選任した
- 申請書類一式を観光庁の申請手引きに従って準備した
- 会社の登記事項(商号・役員・住所)が申請書類と一致していることを確認した
- 登録拒否事由(法第6条第1項)のいずれにも該当しないことを確認した
- 5年ごとの更新登録のスケジュールを登録後の業務計画に組み込んだ
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よくある質問(FAQ)
- Q. 第1種旅行業の申請先はどこですか?
- A. 観光庁長官です(旅行業法施行規則第1条の2第1項第1号)。第2種・第3種・地域限定・旅行業者代理業は主たる営業所の所在地を管轄する都道府県知事の事務となります(法第67条・旅行業法施行令第5条第1項)。旅行業法の現行条文には「国土交通大臣」という用語は存在しません(条文全文を機械検索した実測値: 0件。2026年9月時点)。
- Q. 第1種旅行業の営業保証金はいくらですか?
- A. 前事業年度の旅行者との取引額が400万円未満の場合(新規登録時に多い区分)は7,000万円です(2026年9月時点・旅行業法施行規則別表第一)。本邦外の募集型企画旅行の取引額が8億円未満であれば別表第二による加算はありません。なお、営業保証金の根拠は旅行業法施行規則別表第一であり、施行令に規定はありません。
- Q. 第1種旅行業者の営業所にはすべて総合旅行業務取扱管理者が必要ですか?
- A. そうとは限りません。選任すべき管理者の区分は登録種別ではなく、その営業所が取り扱う旅行の範囲で決まります(法第11条の2第6項)。第1種旅行業者であっても、本邦内の旅行のみを取り扱う営業所には国内旅行業務取扱管理者を選任することができます。海外を含む旅行を取り扱う営業所に限り、総合旅行業務取扱管理者が必要です(同条第6項第3号)。
- Q. 弁済業務保証金分担金は営業保証金の何分の1ですか?
- A. 本来の営業保証金の5分の1です(観光庁「旅行業法概要」)。第1種の場合、7,000万円 ÷ 5 = 1,400万円となります(2026年9月時点)。「10分の1」は誤りであり、試験でも出題されるポイントです。
- Q. 第1種と第2種の業務範囲はどこが違いますか?
- A. 大きな違いは「本邦外の募集型企画旅行を主催者として実施できるかどうか」という点のみです(施行規則第1条の3)。第2種は本邦外の募集型企画旅行が不可ですが、受注型企画旅行・手配については本邦外でも可能です。「第2種は本邦内のみ」「第2種は海外旅行に関与できない」と一律に捉えると誤りになるため注意してください。
- Q. 第1種旅行業の登録後に種別変更はできますか?
- A. 旅行業の登録種別を変更する場合は変更登録の手続きが必要です(法第7条)。種別の変更に伴い財産的基礎や営業保証金の要件も変わるため、変更登録に先立って各要件の充足を確認する必要があります。具体的な手続きは観光庁または主たる営業所の所在地を管轄する都道府県の担当窓口にご確認ください。
- Q. 旅行業務取扱管理者試験に受験資格はありますか?
- A. 旅行業務取扱管理者試験(総合・国内)に特別な受験資格は設けられていません。年齢・学歴・実務経験の有無にかかわらず受験できます。令和8年度の受験手数料は総合13,000円・国内8,000円(ともに非課税)で、申込はインターネットで行います(2026年8月時点・各試験の受験要項より)。

