旅行業界の中でも「教育旅行」「修学旅行」部門は、教員・教育関係者のキャリア経験が特に評価される職域です。旅行業務取扱管理者試験の合格を転職の武器にしながら、教育現場での知見を旅行業に活かす方法を、試験制度から転職の実態まで体系的に解説します。

旅行業界への教員・教育関係者転職が注目される背景
旅行業界、とりわけ修学旅行・教育旅行を専門とする分野では、教育現場での経験を持つ人材が求められる場面があります。生徒の安全管理・引率教職員との調整・教育目的に合わせた旅行企画など、教員・教育関係者が業務の場面で直面する課題と旅行業の現場が重なる部分が多いためです。
修学旅行コーディネーター・教育旅行専門職とは
旅行会社には、学校や教育機関を顧客とした修学旅行・教育旅行の企画・受注・運営を専門に担当する職種があります。一般に「修学旅行コーディネーター」「教育旅行担当」などと呼ばれるポジションで、学校側の担当教員や旅行委員会と折衝しながら旅行の目的・行程・費用を設計するのが主な業務です。
旅行業法上、このような旅行は「受注型企画旅行」に分類されることが多く、学校側の要望(訪問地・体験内容・予算など)を起点に旅行業者が旅行計画を立案し契約するものです。旅行業法の手続きや約款の知識が実務に直結するため、旅行業務取扱管理者資格を持つ人材は特に信頼を得やすいポジションです。
教員経験が旅行業界で活きる理由
教員経験を持つ転職者が旅行業界(特に教育旅行分野)で評価される主な理由として、次のような点が挙げられます。
第一に、修学旅行の引率担当として現場を経験した教員は、旅行会社側の担当者が気にする「学校現場の要望・懸念点」をよく理解しています。学校側の立場に立った提案ができるため、折衝・企画の場面でアドバンテージになります。
第二に、社会科や地理を担当した教員であれば、観光地の歴史・文化的背景についての知識があり、旅行業務取扱管理者試験の「観光資源」「国内旅行実務」科目の学習においても有利です。第三に、教員として培った説明力・対人折衝力は、旅行会社での顧客提案・プレゼンテーション業務にそのまま活かせます。
旅行業務取扱管理者資格の取得が転職を後押しする理由
旅行業法は、旅行業者に対して営業所ごとに旅行業務取扱管理者を選任することを義務付けています(旅行業法第11条の2第1項)。旅行会社は常に有資格者を確保する必要があるため、未経験であっても旅行業務取扱管理者試験に合格していることで、採用側の採用コストが下がり、書類選考で評価される可能性が高まります。
なお、旅行業法に旅行業務取扱管理者の「業務独占」の規定はなく(法令条文全文で0件)、資格を持たない個人が旅行業務を担うことを禁じる規定もありません。選任義務の名宛人はあくまで旅行業者等(事業者)であり(法第6条第1項第9号・第11条の2第2項)、個人が罰則を受ける規定は存在しないことを理解しておきましょう。
教育旅行・修学旅行を扱う旅行業の仕事内容
修学旅行・教育旅行を主力とする旅行会社の仕事内容は、一般のレジャー旅行とは異なる視点が求められます。安全管理・教育目標との連動・学校行事スケジュールとの調整など、旅行業務取扱管理者が押さえるべき実務知識と密接に関連しています。
修学旅行コーディネーターの業務の流れ
修学旅行コーディネーターの業務は、学校への提案活動に始まり、旅行計画の設計・宿泊施設や交通機関の手配・当日の運営支援・事後フォローまで幅広く及びます。学校の学習指導要領に沿った「体験学習・研修要素」の組み込みや、生徒の安全管理計画の策定なども重要な業務です。
旅行前の準備段階では、学校の担当教員や旅行委員会との密なコミュニケーションが欠かせません。希望する訪問先・体験プログラム・予算・移動手段などを精査し、旅行業法上の適正な契約書類(旅行業約款に基づく取引条件説明書・旅行日程表・旅行代金明細)を整えて契約を締結します。
受注型企画旅行と旅行業法の関係
修学旅行はほとんどの場合、学校(旅行者)からの依頼を受けて旅行業者が計画を作成する「受注型企画旅行」の形態をとります。旅行業法が定める受注型企画旅行契約では、旅行業者が旅行者(学校・保護者等)に対して旅程保証・特別補償の義務を負うため、引率教職員や保護者への安心感につながります。
旅行業務取扱管理者試験でも、受注型企画旅行と募集型企画旅行・手配旅行の区別は重要な学習テーマです。教育旅行分野への転職を目指す方は、「受注型企画旅行契約」の仕組みを試験勉強の早い段階から重点的に押さえておくとよいでしょう。
教育旅行に関わる旅行業者の選任義務
教育旅行を扱う旅行会社の各営業所には、旅行業務取扱管理者が必ず一名以上選任されている必要があります(旅行業法第11条の2第1項)。修学旅行・教育旅行は国内旅行が中心のため、国内旅行業務取扱管理者資格でも対応できる営業所が多くあります。
一方、海外修学旅行を扱う場合は総合旅行業務取扱管理者資格を持つ担当者が求められる営業所もあります。営業所が取り扱う旅行の範囲を基準に選任できる資格区分が決まるため(法第11条の2第6項)、転職先の業務範囲を事前に確認することが重要です。
旅行業務取扱管理者試験の概要と教員が受験するメリット
旅行業務取扱管理者試験は「総合」「国内」「地域限定」の3区分があります。教育旅行分野への転職を目指す方には、まず国内旅行業務取扱管理者試験の受験を検討するケースが多いでしょう。国内試験に合格後、国内合格の科目免除(法令・国内旅行実務の2科目)を活用して総合試験に再挑戦することもできます(施行規則第20条第1号)。
| 区分 | 試験方式(令和8年度) | 受験手数料 | 令和7年度合格率 |
|---|---|---|---|
| 総合旅行業務取扱管理者 | マークシート・指定会場(令和8年度:10月25日) | 13,000円(非課税)+システム利用料660円 | 26.1%(受験者4,519名・合格者1,179名) |
| 国内旅行業務取扱管理者 | CBT方式・全国テストセンター(令和8年度:9月3日~25日から選択) | 8,000円(非課税)+システム利用料660円 | 34.1%(全科目受験。受験者9,759名・合格者3,330名) |
| 地域限定旅行業務取扱管理者 | 会場筆記(令和8年度:9月27日) | 5,500円(収入印紙・システム利用料なし) | — |
手数料・試験日は2026年8月時点の確定値。最新の受験案内は各実施機関(総合=日本旅行業協会、国内=全国旅行業協会、地域限定=観光庁)でご確認ください。
国内試験のCBT方式とは
令和8年度の国内旅行業務取扱管理者試験は、全国47都道府県のテストセンターでCBT(コンピューター・ベースド・テスト)方式で実施されます。受験期間中(令和8年度は9月3日木曜日から25日金曜日)に受験者が日時とテストセンターを選択して受験するため、会場に集まってマークシートを塗る形式ではありません。
現職教員が在職しながら受験する場合も、CBT方式なら学校行事と重ならない日程を選択しやすいメリットがあります。なお国内試験の申込方法はインターネットのみであり、書面申請は認められていません(ANTA受験案内)。
教員が持つ学習上のアドバンテージ
旅行業務取扱管理者試験の「国内旅行実務」科目では、国内の観光地・温泉・文化財・世界遺産・自然公園などの地理・観光資源が出題されます。社会科や地理を担当した教員は、これらの知識をすでに持っている場合が多く、学習負担が軽くなる可能性があります。
また、法律の文章を読み解く読解力や体系的な学習習慣を持つ教員は、旅行業法・旅行業約款の理解においても有利に働くことが多いです。授業計画を立案する習慣が、試験合格に向けた学習計画の策定にも活きます。
転職活動の進め方とタイミング
旅行業務取扱管理者試験の合格を転職の武器にするには、試験日程と転職活動のスケジュールを連動させた計画が重要です。在職中の教員であれば、繁忙期(学期末・行事シーズン)を避けた学習期間の確保が最初のステップになります。
転職前に準備しておきたいこと チェックリスト
- 旅行業務取扱管理者試験(国内または総合)の受験・合格
- 旅行業法の基礎(登録制度・書面交付義務・受注型企画旅行)の理解
- 旅行会社の種類・教育旅行専門部門の把握(大手・中小・専門会社)
- 旅行業界の年間業務サイクル(繁忙期・閑散期)の確認
- 職務経歴書への「修学旅行引率経験・教育現場での調整経験」の整理
- 転職エージェント(旅行業界特化)への相談・求人情報の収集
- 退職時期・転職後の生活費等の財務面の準備
試験合格のタイミングと転職活動の組み合わせ
旅行業務取扱管理者試験に合格してから転職活動を始めるか、在職中に並行して進めるかは、個人の状況によります。転職活動と試験勉強を並行する場合は、試験日程から逆算して学習計画を立て、採用選考の面接準備と勉強のバランスを取ることが重要です。
一例として(想定例)、国内旅行業務取扱管理者試験を7月から約2か月集中して学習し、9月のCBTで合格、合格発表(例年11月頃)後に旅行会社へ応募するというスケジュールがあります。国内試験の合格発表が出る秋以降は旅行会社の採用活動も活発になる時期と重なることが多く、転職活動のタイミングとして現実的な選択肢の一つです。
応募書類・面接でのアピールポイント
教員からの転職であることを強みに変えるには、教育現場での経験を旅行業の文脈に翻訳することが重要です。面接では「どのような修学旅行を経験したか」「引率中の安全管理・緊急対応の経験」「旅行業務取扱管理者試験の学習を通じて得た旅行業法・約款の理解」を具体的に説明できるよう準備しましょう。
「なぜ旅行業を選ぶのか」「なぜ教育旅行分野か」については、自身の経験に基づいた明確な理由を語れるかどうかが採用担当者の評価ポイントになります。旅行業界全体の動向や旅行業法の仕組みへの理解を示せると、資格保有と合わせて一層強いアピールになります。
転職後のキャリアパスと職場環境
旅行会社に入社した後のキャリアパスは、担当業務・会社規模・自身の意欲によって多様に広がります。教育旅行担当として実務経験を積みながら、旅行業務取扱管理者の選任・管理職へのステップアップを目指す方も多いです。
教育旅行担当からのステップアップ
旅行会社に入社後、教育旅行担当としてキャリアをスタートし、実務経験を積みながら旅行業務取扱管理者(選任)・支店長候補・ツアー企画担当などへのキャリアアップが期待できます。旅行業務取扱管理者として選任されると、営業所の管理・監督業務を担う立場になります。
一定の経験を積んだ後、学校向け旅行にとどまらずMICE(会議・報奨旅行・コンベンション・展示会)や海外旅行企画など、業務の幅を広げる機会が生まれることもあります。旅行業務取扱管理者(総合)を取得しておくと、海外旅行分野での業務にも対応しやすくなります。
旅程管理主任者資格の取得
旅行会社に就職した後は、企画旅行の添乗業務を行う旅程管理主任者資格の取得も視野に入ります。旅程管理主任者は、観光庁長官の登録を受けた登録研修機関が実施する旅程管理研修を修了し、かつ一定の実務経験を有する者が取得できる資格です(旅行業法第12条の11第1項)。
旅行業者等の従業者でないと研修受講ができない場合が多いため、入社後に旅程管理研修の機会を利用して取得を目指すのが一般的な流れです。旅行業務取扱管理者資格と旅程管理主任者資格の両方を取得することで、旅行業界でのキャリアの幅がさらに広がります。
旅行会社での職場環境と注意点
旅行会社はGW・夏休み・年末年始など休暇シーズンに繁忙期が集中する傾向があります。教員時代の長期休暇(春休み・夏休み・冬休み)が旅行会社では繁忙期に当たることが多く、働き方のギャップを感じる場合があります。事前に面接などで年間の業務サイクルや休日取得の実態を確認しておくと、入社後のミスマッチを防ぎやすくなります。
一方、旅行業界では「社員旅行割引」「招待旅行」「現地研修」などの福利厚生を提供している旅行会社も多く、旅行好きな方にとっては仕事と趣味が結びつく職場環境を得られる場面もあります。

よくある質問(FAQ)
- Q. 教員免許を持っていることは旅行業界の転職に有利ですか?
- 教員免許自体が旅行業界での採用要件になることは一般的ではありませんが、教育旅行・修学旅行専門部門の求人では、教育現場の知見を持つ方を歓迎するケースがあります。特に旅行業務取扱管理者試験の合格と組み合わせることで、採用担当者に具体的な強みをアピールできます。
- Q. 旅行業務取扱管理者試験に合格しないと旅行会社に転職できませんか?
- 旅行業法に旅行業務取扱管理者資格がないと旅行業界で働けないという規定はありません(業務独占規定・個人の業務禁止規定は旅行業法に存在しない)。ただし、旅行業者には営業所ごとの選任義務があり(法第11条の2第1項)、有資格者の採用を優先する旅行会社は多いため、資格取得が転職の有力な武器になります。
- Q. 国内旅行業務取扱管理者と総合旅行業務取扱管理者のどちらから受験すべきですか?
- 教育旅行分野(国内修学旅行が中心)への転職を目指すなら、難易度の低い国内旅行業務取扱管理者試験から始めるのが現実的です。国内試験に合格した後、国内合格の科目免除(法令・国内旅行実務の2科目)を使って総合試験に再挑戦することもできます(施行規則第20条第1号)。
- Q. 旅行業務取扱管理者試験の合格率はどれくらいですか?
- 令和7年度の合格率は、総合旅行業務取扱管理者試験が26.1%(受験者4,519名・合格者1,179名)、国内旅行業務取扱管理者試験が34.1%(全科目受験。受験者9,759名・合格者3,330名)でした(出典: JATA・ANTA令和7年度実施結果)。合格率を参考にする際は年度を明示した実績値でご確認ください。
- Q. 教員在職中に旅行業務取扱管理者試験を受験することは可能ですか?
- 可能です。特に国内旅行業務取扱管理者試験はCBT方式のため、全国のテストセンターで受験でき、受験期間(令和8年度は9月3日~25日)の任意の日時を選択できます。学校行事と日程が重ならない日を選んで受験できるため、在職中の受験に向いた試験方式です。
- Q. 旅行会社への転職後、教員時代より年収が下がることはありますか?
- 旅行業界の年収水準は企業規模・職種・地域によって異なります。転職当初は変化が生じる場合もありますが、旅行業務取扱管理者として選任されると資格手当が付与される旅行会社も多く、キャリアアップに伴い年収が増加する可能性があります。具体的な年収は求人情報や面接時に確認することを推奨します。
- Q. 旅行業務取扱管理者試験の勉強は独学で合格できますか?
- 国内旅行業務取扱管理者試験は、市販テキストと過去問だけで合格した独学者が多い試験です。教員の多忙な業務と並行して学習する場合は、通信講座を活用することで学習時間の効率化が図れる場合があります。受験に役立つ教材・通信講座についてはこちらのページも参考にしてください。
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